2014-10-26
里山資本主義

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『里山資本主義――経済は「安心の原理」で動く』
藻谷浩介・NHK広島取材班 共著
角川oneテーマ21
戦後の日本を支えた(とされている)大量生産大量消費、競争原理、エネルギー集約、高度成長、グローバリズムを前提とした経済システムを〈マネー資本主義〉とするならば、余剰物活用、共生、エネルギー分散、地産地消に根差した生活様式を意味するのが〈里山至上主義〉との造語である。
冒頭、ほんの一例として製材で出た木片を燃料とした〈木質バイオマス発電〉や廃材を利用した〈エコストーブ〉を紹介している。
「しかし、それで日本のエネルギーはまかなえない。実行すれば3日で全国の森林が禿山になる」
そう思った。私だけでなく多くの人々がそう考えるようで、著者は同様の反論を嫌になるほど浴びたらしい。やはり冒頭、〈木質バイオマス発電〉や〈エコストーブ〉で原発がなくなるわけではないと断りを入れている。
著者が主張するのは、紹介した技術を、低コストで導入可能な環境であればサブシステムとして活用してはどうかということだ。エネルギーの供給元は多様化、分散化したほうがいざというときに便利だという。言われてみれば、その通りである。
ではなぜ、紹介された技術に対し、私や多くの人々は「全エネルギーをそのシステム一択で確保しなければならない」と無意識に考えてしまったのだろう?
労働も技術もエネルギーも、集約した方がコストが安く効率的だと教わり続けてきた。しかしその神話は先の大震災で脆くも崩れた。残るは利権だ。集約システムの上に既得権益を構築した一部の権力と資本が、メディア戦略によって我々の価値観や思想をコントロールしているのではあるまいか。
陰謀論はこのぐらいにして本の内容に戻ろう。
高齢化、少子化、過疎化、耕作放棄など、地方の弱点を逆手に取ったビジネスや行政、生活様式が、本書には多数紹介されている。(ただし無責任な田舎暮らし賛美ではない)
なかでも重要なのは〈簿外資産〉というキーワードだ。よく脱税とセットで使われる表現なので悪い印象があるかもしれない。しかし、ここでいう簿外資産とは、金銭に換算できない財産のこと。身近に水源や作物を作れる土地がある環境や、余剰物を融通しあえる人間関係などがこれにあたる。より多くの簿外資産を確保しておけば低収入でも豊かに暮らせるし、有事によって経済や流通が一時的に機能停止しても生活を維持できる。
ただし簿外資産は金銭に換算できないだけに消費やGDPに貢献しない。よって国家や経済団体などは無視か否定の態度をとるだろう。
また、バブル崩壊以来刑期が低迷し「失われた20年」と自虐しきりな日本経済が本当に破綻寸前なのか、財政と金融の面から冷静に分析している点も興味深い。
この本を特に、就職を控えた若者に読んでほしい。メディアは「就職が困難」と毎日のように脅し文句を垂れ流すが、そんな情報は企業が若者を安く酷使するための方便にすぎず、労働形態や生活様式に柔軟性と多様性をもたせれば豊かに暮らしていけると本書は教えてくれる。
日本には、まだけっこう希望が詰まっているのだ。
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